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シンガポール日本商工会議所 JCCI月報 2019年11月号

単一社会の島国からマルチカルチャーの島国へ

多様性の存在を受け入れることが成功への近道

 

Founder, WASABI Creation Pte Ltd

Tong Cheuk Fungトン・チョッフォン

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シンガポール人のビジネスコンサルタントとして、10年以上日本企業のシンガポール進出を支援しています。新卒で京都の会社に就職したことから始まり、これまで2カ国の人々の考え方、商習慣、文化の違いが、ビジネス取引や職場において数々の障害、高いハードルとなるのを目にしてきました。

また自分自身の経験を抜きにしても、シンガポール人の知人から、日系企業で働くことがどれだけ大変か、日系企業と取引をするのがどれほど難しいか、という話を聞きます。日本語を勉強してきたシンガポール人や日本と取引をしてきた企業が、日本から離れ、韓国や中国に目を向ける姿も見ました。

 

今回は、シンガポールに出てきたばかりのクライアントの皆様によくお話させていただく、シンガポールと日本の違いや、それを乗り越えるためのグッドプラクティスを紹介したいと思います。

 

 

シンガポールは多文化社会、労働者の在り方も多様性に富む

日本はほぼ単一民族のモノカルチャーな社会ですが、シンガポールで働く人々は、多民族、多国籍、多宗教とさまざまなバックグラウンドを持つ人の集まりです。日本人のほとんどはお互いに非常にたくさんのことを共有しています。例えば教育、倫理観、社会的な期待、雇用システム、歴史、文化的な価値観、制服文化などなど。それぞれが似たような経験を持つからこそ、日本には「暗黙の了解」が存在できます。期待される役割、振る舞い方などを言われなくても理解し、実行に移すのが日本の人たちです。

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しかし、シンガポールのように一人ひとりの、生まれ、育ち、言語、宗教、受けた教育、習慣がなにもかも違う中では、こうした違いをマネージメントすることで、一つの社会を作り上げています。日本とは真逆の環境なのです。 日本以外の国から来る駐在員の多くが、多文化な社会の在り方をある程度理解しています。アメリカやヨーロッパの国では移民がいるのが当たり前だからです。しかし日本人駐在員の多くは、多文化な社会の感覚があまりありません。シンガポールや域内で事業を成功させたい日本人駐在員には、こうした違いを理解し、従業員やパートナー、顧客と関係を構築していくことが、他の国の人たち以上に強く求められることになるのです。

 

多文化な社会を考える上で、一つ例を挙げると、シンガポールの人口の3割を占める外国人労働者です。外国人の雇用に関する法規制を理解するのはもちろんのこと、彼ら自身について理解を深めることが、ビジネスを成功させるためのカギとなるでしょう。外国人労働者がシンガポールで働いている理由について思いをはせたことはあるでしょうか。日本人のみなさんにとって、上京して就職する、他県で転職するといったことは一般的ですが、海外での就職については、まだまだなじみがないと思われます。会社で働く外国人スタッフが、遠く故郷を離れてシンガポールで働いている理由について、まずは理解を深めてみてはどうでしょう。日本人のみなさんは「会社が最優先」という方も多いです。しかし、これから紹介する人たちは、必ずしもそうではありません。

フィリピン人エンジニアの彼はおそらく、シンガポールで長く働き、将来的にフィリピンの家族を呼び寄せたいと考えています。レストランのスタッフを務めるマレーシア人の彼は、地元でビジネスを始めるための開業資金を貯めているところです。アドミンスタッフのベトナム人の彼女は、大学生の娘の学費のために働いており、もう少ししたら退職して帰国しようと計画しています。中国人の新卒の彼女は、おそらく2年ほどシンガポールで働いてから、別の国で転職する考えです。どの人も、育った環境やバックグラウンド、教育レベル、今この瞬間のライフステージが異なります。シンガポールで働くことを選んだ理由もさまざまなのです。

 

会社で掲げる理念や目標の共有は重要ですが、それを達成するには、従業員それぞれに合わせたアジェンダを用意し、彼ら彼女らの個人的な希望に寄り添うことが必要になります。彼らへの理解を深めることで、彼ら自身を応援するとともに、うまい形で会社にも貢献してもらえるように務めることが求められるのです。ここで具体例を挙げたのは外国人労働者だけですが、シンガポールにはこれ以外にもさまざまな局面で「多様性」が見られます。とにかく「違う」ことが当たり前の環境です。日本の常識とは根本的に構造が異なることを受容し、時間をかけて、コミュニケーションとトライを重ねることが重要だと考えます。

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シンガポールでは日本以上に「契約」に強調が多い

シンガポールではしばしば、契約書の合意内容に強い表現が書かれることがあります。比較的小さな取引の場合もです。これにはシンガポールの社会が人種や文化に関して多様性に富んでいるためです。甲乙どちらの要件も白黒はっきりさせておくことが目的で、価値観や商習慣の違いから生まれる誤解を避け、間違った期待を互いに持たせないことが狙いです。もちろん、相手が内容を反故にした際に、自身を守ることが最重要ではありますが。

 

前回お話しした通り、日本はモノカルチャーな社会で、日本人は暗黙の了解や常識をもとにした互いへの期待を持ち、ビジネス上でも同じ商習慣を共有しています。そしてこれらは、わざわざ紙の上で明記する必要がないのです。しかしながら、若い国で、文化的に全く異なる社会で、ビジネスのランドスケープが目まぐるしく変わるシンガポールでは、法的効力を持つ契約だけが、甲乙それぞれに約束の遂行を義務付ける唯一の手段です。一例として、ファインシティー(罰金都市)と呼ばれるシンガポールを見てみます。MRT車内での喫煙は罰金1000シンガポールドルです。同じく飲食は500ドル、火気の持ち込みは5000ドルになります。路上で黄色い枠外での喫煙は罰金200ドルです。どんなバックグラウンドを持つどんな人にとっても、これらの罰金ルールを理解することは難しくはありません。シンプルで分かりやすい強いルールを用いることで人を治めているのが、シンガポールという国なのです。

一方、日本について考えてみます。新幹線の中で、乗客は駅弁やビールを楽しむことができますね。ところが、普通の日本人は、山手線などの在来線の車内では食事をとらないことを選択します。駅構内や小売店の中を歩きながら、何かを食べるのはご法度です。これはすべて、日本の人の間でしか通用しない「常識」のなせる業です。外国人からすると、なんの注意書きもないのに、新幹線の中では食べてもよいが、在来線の中で食べると怒られるというのは、理解に苦しむ感覚なのです。

 

話をビジネスに戻すと、日本企業は互いの関係性、信頼感、私的なやりとりや契約以外の部分での交渉内容などに重きを置きがちです。他の国に比べ、日本の弁護士人口の比率が少ないという事実が、こうした状況を間接的に表しています。ここでも相手との暗黙の了解や、当たり前の「常識」が顔を出します。ただしこの常識は、日本人以外の人には認識されていません。そのためか、日本企業はトラブルが発生するその瞬間まで、契約内容をおろそかにしてしまいがちです。シンガポールのパートナー企業は、白黒はっきりした契約内容をベースに自分たちの立ち位置を遠回しに伝えてきます。信頼感をベースとした平和的で友好的な長期のリレーションシップを結ぶことは、彼らにとっては優先度の低い事項だったりするのです。

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これにはいくつか理由があります。まず、日本人は1つの会社で長く働くことが一般的です。そのため、担当者レベルでもクライアントと良い関係を築くことが重要視されます。かたやシンガポール人は、1つの会社で数年しか働かないのが普通です。経営層やCEOですらその傾向にあります。みな簡単に職を変えることができるのです。日本人が相手担当者との関係性をいくら大事にしても、次の四半期には新しい担当者に出会うだけでしょう。一方で、担当者が何度変わろうと、契約書の内容は変わりません。新しい担当者も契約書に基づき淡々とやるべき業務をこなします。このような観点からも契約書は大変重要になるのです。加えて、日本人は会社と自分自身を同一視している人が多いですが、シンガポール人にその傾向は少ないため、契約を結ぶ際に白黒はっきりとした決断が可能だったりもします。

 

不慣れな概念に対する思い込みに気を付けて

海外には、日本にはない概念やコンセプトがあふれています。特に日本は単一社会の島国ですから、この違いは大きく、そのため海外にいる日本人ビジネスマンはしばしば苦労を体験します。例えば、以前であったある企業は「チャイニーズ向けのマーケティング戦略」を打ち出しました。彼らはこの戦略が、中国本土の中国人、香港人、台湾人、中華系シンガポール人、同マレーシア人、同インドネシア人の全員に有効だと考えていました。しかしこれは大きな勘違いです。本土の中国人にしか有効ではない戦略で、そのほかの中華系の人々にはあまり意味がない戦略でした。

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実際のところ、上述の6種類の「チャイニーズ」は、それぞれに全く異なる性質と文化、言語、好みなどを持っています。華人であっても、中華系インドネシア人にいたっては中国語すら話さないことが多いのです。「中華系(チャイニーズ)はみんな同じようなものだろう」という思い込みは、賢い考えとは言えません。海外で事業展開する日本企業の人たちは、「中国人と中華系」の例のように、日本には存在しない概念やコンセプトが海外にはいくつも存在することを知る必要があります。

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以前、クライアントから「中国人や中華系の人たちの違いが正直分からない」と質問を受けたことがあります。私の説明はこうでした。

「日本人駐在員の家族で、シンガポールの日本人学校で育った子どもを想像してみてください。何人かのシンガポール人の友達もいて、現地の文化も少し知っています。彼らが日本に帰ると、日本の学校の同級生たちとは少しだけ違っています。」

「日本人駐在員の家族で、インターナショナルスクールに通った子どもを想像してみてください。シンガポール人の友達に加え、さまざまな国出身の友達がいます。教育システム、教師の教え方、考え方は、日本のそれとは大きく違います。彼らが日本に帰ると、日本の学校の同級生たちとはだいぶ違っています。」

さらにもう一つ、「シンガポールに定住すると決めた駐在員の子息たちを想像してください。日本人同士で結婚し、シンガポールで暮らしています。永住権も取得しました。家では和食をよく食べますし、お正月も祝います。家族同士では日本語を話します。彼らの子どもは家では日本語、外ではシングリッシュを話します。この家族は、日本の一般的な家族とはだいぶ違っています。」

最後に、「このような”だいぶ違っている家族”が、インドネシアにも、タイにも、アメリカ、ヨーロッパ、中国にも、いろいろな土地にいるのを想像してください。」そうです。ここで断言しますが、こうした人たちはそれぞれに使う言語が異なり、考え方、趣味嗜好、行動も違います。でも彼らは民族的には日本人ですし、白米と味噌汁を食べています。お正月ももちろん祝っていると思います。

 

中国人と中華系の違いも、こういう違いを指しています。

日本語スピーカーを安易に採用しないで

海外にいる日本企業は、しばしば日本語を話せる現地人材を採用します。管理層や日本本社との連携の上で、利便性を考えてのことであるほか、日本語スピーカーなら日本のカルチャーを理解していると考えるためです。大まかな算定ですが、ある求人に対し応募資格のあるシンガポール人のうち、日本語が話せるのは全体の約1%でしょう。日本企業はこの1%の中から人を採用し、残りの99%にどんなに優秀な人材がいても見逃してしまいます。99%は、同じ業界のライバル企業に採用されているかもしれません。

 

日本語は習得が難しい言語です。膨大な時間を投資しなければ上達は望めません。ですから外国人で日本語をマスターした人で、IT、マーケティング、エンジニアリングなどそのほかの重要な技能を獲得している人はなかなか稀な存在です。(言い方は悪いですが、日本語「しか」できない人が多いのです。)そして、この状況はさらに悪くなっているとの見方もできます。というのも、シンガポールではかつてほど日本語が人気ではなくなってきているためです。最近は、第3言語として韓国語など他の言語を勉強するシンガポール人が増えています。そのため、有能な日本語スピーカーを見つけるのは、将来的にますます難しくなるでしょう。

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Source: Nihongo Plat, http://www.nihongoplat.org

こうした理由から、日本企業は、日本語スピーカーに限定せずに、より母数が大きい集団から才能ある人材を採用することが求められます。海外法人のトップには、言語の違いにも臆せず対応できる、起業家的な精神を持った人を置くことが有効といえるでしょう。日本法人での経歴が長いかどうかよりも、異なる文化でサバイブできる能力が重要です。

 

 

リンクトインでビジネスマッチングの可能性を広げる

世界的にはビジネスパーソン向けのソーシャルメディアとしてリンクトインが確立されて久しいですが、日本人の利用人口はまだまだ低いのが現状です。自分の経歴をネット上に公開するというのが一般的ではないからでしょう。しかし、海外で事業展開する上では「コネクション」が一つの重要な鍵となります。人材採用からパートナー企業探し、取引顧客の獲得を含めてコネクションです。リンクトインはこうしたコネクションの構築や企業ブランディングにも役立ちます。私が運営する会社でも、リンクトインは非常に役立っています。クライアントのための販売代理店や小売店、潜在顧客などを探したり、市場調査をするのにも有効で、意味のある人脈を発掘できるよいツールとなっています。

日本ではしばしば企業が、その文化や利便性を理解しないまま、社員のソーシャルメディアの活用を制限しています。日本の本社が海外オフィスのソーシャルメディアの利用を管理している場合もあります。日本本社ではリンクトインの有用性や構造が理解されていないために、海外オフィスのメンバーがリンクトインを使えなかったりするのです。これは大変もったいないことで、場合によっては事業機会を逃していることもあるでしょう。

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今日のインターネットの世界では、さまざまなことが「直接的」に行われています。旅行代理店を使う代わりに、航空会社のホームページで直接航空券を予約するのは当たり前になりました。販売店で商品を買うのではなく、オンラインでメーカーに直接注文をするようになりました。新しいビジネス関係の人間関係を築くに当たっても、リンクトインを通じて、直接潜在顧客やパートナーにアプローチする人が増えています。

 

私は事業として、日系企業の皆さんの潜在顧客やパートナー探しをお手伝いするために、ビジネスマッチングのサービスを提供していますが、それでもみなさんにリンクトインを活用してもらえるほうがいいと考えています。(ビジネスマッチングの仕事はなくなってしまうかもしれませんが。)リンクトインを活用するだけで、海外ビジネスの立ち上げの効率は劇的に向上すると思います。

国際的な企業のほとんどが、リンクトインなどの活用を企業戦略の一環として取り入れています。日本企業のみなさんもソーシャルメディア、リンクトインを賢く活用してみてはどうでしょうか。

<執筆者自己紹介・経歴>

香港生まれ。9歳で家族と共にシンガポールに移住。シンガポール国立大学卒業。専攻は化学工学、副専攻として起業家精神を学ぶ。京都のバイオディーゼル製造メーカーでマーケティングディレクターを務めた後、大阪のイベント運営会社に転職。グランフロント大阪のナレッジキャピタル発足に携わった。2014年にシンガポール帰国。日本とシンガポール・ASEANをつなぐためWASABI Creationを創業。強く刺激的でみどり鮮やかなワサビのように、日本というスパイスでASEAN全体を彩ることをミッションに掲げている。

連絡先:hi@wasabicreation.com

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